藤本美貴カジュアルディナーショー −歌編−

舞台上に藤本美貴その人が立っていました。
深い深い緑色のドレス。
すぐに1曲目の前奏が始まって、マイクを持った手がスッとあがる。その彼女の立ち振る舞いに吸い込まれそうになる。
こうして幸せな時間が流れ出したのでありました。


1.ロマンティック浮かれモード
落ち着いた歌い出し。そこから弾けるような明るさを持つ曲。いまや紛れもない代表曲である『ロマンティック浮かれモード』が1曲目を担います。


このレストランという狭い空間。着席して聴くというスタイル。ディナーショーという環境から来るイメージで、落ち着いた調子の楽曲が多く歌われるという先入観が強かったので、いきなり良い裏切られ方をしました。


そして生演奏が良い!当たり前だけど良い!!
生演奏のアレンジによって原曲の持つイメージより少し変化して、より身近な印象になりました。なんか大きいホールで盛り上がるアゲアゲな曲ではなく、ライブハウスで品よく高揚する感じ。


前奏後、藤本さんが自ら手拍子を打ち始める。その姿がまたカッコいいんです。別に特に客を煽るわけでもなく、ただリズムに乗って叩く。自然と客も叩き始めます。
変な動きをする客も回る客もいない。これでいい。これがいい。心と熱のこもった手拍子だけでじゅうぶんなんです。


藤本美貴の歌には飾りは要らない」
初めて聴く彼女の生の歌声に、そう思いました。


2.Let’s Do 大発見!
息もつかせぬ勢いで、2曲目も盛り上がる一曲。この曲はデビューした彼女が人前で披露した最初の曲でしたか。そんな背景を感じつつも、それを忘れさせるほどの今の彼女の歌声に熱中させられる。


僕は今までライブとかで手を叩いたりしたことなかったんですね、実は。いつも席が遠い(最後列から数えて5列以内くらい)っていうのもあるし、1人で参加していることが多いから「恥ずかしいな」っていう気持ちもあったんです。


でも勝手に叩いていました。曲に身を任せ、彼女の歌声に耳を傾けながら。恥ずかしいとかなかったです。歌っている本人と感覚がシンクロしているかのように、僕も音に乗ってました。


曲のラストのフェイク。熱が溢れる声。「Thank you!」。その瞬間、弾ける拍手。今、自分がここにいることを幸せに思った。


準備は万端、場の空気は完全に温まっていました。僕も、他のお客さんも、そしてたぶん藤本さん本人も、エンジンは既にフルスロットル。


3.シャイニング 愛しき貴方
僕が藤本美貴のディナーショーに行くならば是非聴きたかった曲のうちの1曲がこの曲。彼女の声が大好きな曲だし、ダンパ(ダンスパーティー)っぽいオールディーズな曲調もディナーショー向きだとずっと思っていました。


単調ともいえるリズム、盛り上がりはボーカルのライン。夕暮れ時に、でライティングが夕焼け空の色に変わり、歌っている彼女の姿を赤く照らし出す。歌っている歌詞の情景が容易に想像できました。


歌の中のヒロインは歌っている本人。歌声から伝わってくる感情の流れにそんな印象を受けました。
「すんごくねえ 大好きよ 好きよ」伸びやかな声。歌を「聴かせて」いるんですね。歌そのものが身体に入ってくる感覚を覚え始めました。


I believe that she is shining most in this world.


4.幼なじみ
MCを挟み、『幼なじみ』。これ、一番聴きたかったんです。キーボードのイントロを聴くだけで心がジンと震える。


「何度も聞くから・・・」
このあたりから「歌を聴く」感覚に支配され始めました。歌の世界に意識が集中しだして、歌声に身を任せるようになりました。余計な思考や疑いは全くなく、ただこの「幼なじみ」の2人のストーリーを頭に思い描く。


かわいらしい幼なじみの話。その2人の困惑しながらも幸せな瞬間を愛しむかのような表情で歌う壇上の彼女。気持ち悪いかもしれないけれど、僕も同じ表情してた。と思う。


5.声
生演奏のアレンジなので少々わかり辛かったのですが、イントロを聴いて「まさか!」とびっくりしました。まさかモーニング娘。のアルバム『愛の第6感』収録の『声』を生で、しかもソロで聴けるとは!


ソロで聴く彼女の声は一般的に、クセが強い声という印象だと思います。個性が強いと思われがち。しかし昔に比べ、ずっとずっと柔らかくて優しい歌い方も出来るようになったと僕は思ってます。そしてそれは、この歌で大いに発揮されていました。もちろん原曲とは少し違う印象を抱きましたが、ごく自然に「恋をしている人なら誰でも抱く、ちょっぴり切ない気持ち」を感じることが出来ました。


「声が聴きたい、近くにいたい・・・」
彼女が実に繊細に、大事に歌い上げるラストのフェイクに、切なる想いが高まる。


6.雨
MCを挟みカヴァー曲2曲。最初は森高千里さんの『雨』。
僕はこの曲は全く知らなかったのですが、それだけに歌が身体の中に入ってくる入ってくる。初めて聴く歌だから「どんな歌なんだろう」という驚きと共に、すごーく集中して聴いていました。


そうやって聴いているうちに、ちょっと気分が塞ぐ。自分が失恋したときのことを思い出してちょっぴりセンチメンタルに(笑)「雨は冷たいけどぬれていたいの 思い出も涙も流すから」なんてそんなにドラマチックな別れ方はしたこと無いけれど、思いは同じだなぁ、なんて。


僕が「歌」を聴きながら回想していること、これ即ち、彼女と僕の間で「歌を伝えている・受け取っている」という関係性が成立していることになる。


7.PIECE OF MY WISH
2曲目は今井美樹さんの『PIECE OF MY WISH』を。美貴×美樹ですよ(笑)
この曲も僕が知らない一曲。でもすごくいい曲。聴いていてじんわりと勇気づけられる。
優しくも力強さを秘めた歌声に、背中をそっと押される感覚。


最近の僕は私生活がうまいこと行っていないので、染みました。


8.贈る言葉
MCを挟み、誰でも知っている海援隊の『贈る言葉』。
実は僕はこの歌と縁がなくてですね、ちゃんと聴いたことなかったんです。でもこの機会によってなんで歌い続けられているかわかったような気がしました。僕もいつかこうして人に言葉を贈る時が来るのだろうか。


「皆さんも歌ってください」という言葉と共に、歌いながら客席の方へ降りてくる藤本さん。呆けた顔の観客。中には正視に耐えない顔もあったでしょうが(笑)1人1人と丁寧に目を合わせる彼女。歌というツールを通して僕たちに言葉を贈る彼女うわわわわわ!!!なんかそんなんどーでもよくなってきた!近い近い!!飛ぶ!意識が飛ぶ!!


残念ながら座っている席は通路側ではなかったんですが。
語りかけるように僕の目をのぞき込みながら歌ったあの一瞬だけは、彼女は僕だけの彼女でした!!


9.恋ING
イントロの出だしでキーボードの方がミスをする。もう1回仕切り直しましたが、またミスる(笑)でも、それでもこの曲が何であるかわかってしまいました。


この『恋ING』、藤本さんの前のカジュアルディナーショーでも披露されていた曲で、その時からずっと聴きたくて、演目から外されないようにひそかに願っていました。それ以前では娘。のコンサートでも披露されていて、この曲を生で聴くというのはちょっとした僕の悲願でもありました。


もうね、イントロから甘酸っぱい!『幼なじみ』もそうですけど、ピアノの音のイントロで歌い出しを待つ時間って最高なのであります。ゾクゾクする。


「いつまでも二人でいたい パンが一つならわけわけね」
藤本さんがちょっとした振付をやります。まず2本指を立て、それから人差し指だけにしてワケワケね、と。初めて生で聴く歌でその振りも見るのは初めてなので、普段はどういう振りかわかりませんが、こういう場所でさりげなくやるには良い振りだと思いました。かわいらしいし、女の子の幸福感が溢れ出てました。


もともと聴きたかった1曲だったというのもありますが、言葉で語りかけるように幸せそうにこの歌を歌う藤本さんを見て、こちらも幸せになりました。


10.満月
終盤、ここでまた一発元気な曲『満月』。
藤本さんの力強い声は最高潮に達し、会場は総立ちになっていました。精神的に。


爆発的ともいえる藤本美貴の歌声の真骨頂を味わう。身体が勝手に高揚して手拍子を叩く。楽しい、最高に楽しい。ただその瞬間、「もうそろそろショーは終わりなんじゃないか」という寂しさが頭をよぎる。そしてそれを振り払うかのように、僕は心の中で彼女と一緒になって合唱していました。
「でっかい声で叫びたい!幸せのOH! YAH! OH! YAH!」


11.ボーイフレンド
MCで最後の1曲という悲しい知らせが。幸せはなかなか長く続かないものであります。だからこそ記憶の中で宝物となる。


届かない想いを歌った切ない歌。『ボーイフレンド』を聴いていた僕は、ショーが終わってしまう寂しさと共に自身の失恋体験を回想してしまいました。
「世界の誰より愛する自信があるのに」
叶わない恋、届かなかった想い。あの時は自分が世界でいちばん相手を好きだという自信がありました。報われないほど、より強く叫びたくなる。


歌を聴いて切なくなり、この時間が終わってしまうことに寂しさを募らせていく。
最後のフレーズが来て、彼女の歌声はここまで。あとは演奏のみ。もう終わってしまうんだ!終わらないで!!


でも。
これって、僕が全身全霊でこのショーを楽しんでいたという証拠に他ならない。
この寂しさ。切なさ。楽しさ。興奮。幸せ。
すべて彼女の歌から受け取ったものでした。


彼女が視界から消えていきます。
出来ることならずっと拍手をしていたい、そう思いながら送り出しました。


ここに来れて、良かった。歌が聴けて、嬉しかった。